メタルサーガSS ミスタードリラー

SSというか会話のみのコント。


「マスター、少々よろしいですか」
「どうしたのアルファ? 畏まっちゃって」
「これまでマスターには色々な事を教わりました。そのお礼を伝えておく必要があると判断しました」
「いやいや僕もアルファには色々お世話されてるし、なんてことないさ」
「有難うございます。それではマスター、お元気で」
「ああ、アルファも達者で。……いやいやちょっと待った」
「マスター、何か」
「これじゃあまるで僕とアルファがお別れをするみたいじゃないか」
「みたいではなく、お別れです」
「そんな、聞いてないよ!?」
「今言いました」
「そうじゃなくて、なんでお別れなんて言い出すの!? なにか待遇に不満でもあるの?」
「現状の私では、マスターの意向に添えないと判断しました」
「そんなことないさ、アルファはとてもよくやっているよ! もし非戦闘時に
 水着とかチャイナドレスとかを着てくれという命令が嫌なら取り消すからさ!」
「服装に関する不満は特にありません」
「じゃあなぜ?」
「マスターの部屋を清掃していた際、ベッドの下に本が幾つか隠蔽してありました」
「男の子の聖域に手をお出しになられたと!?」
「若干古い本は少々幼い女性の裸体などが納められたものが多く散見され、また
 新しいものからは私に類似した外見や体型の女性像を収めた本が見つかりました。
 これはマスターの女性嗜好がエミリから私に移ったものと判断してよろしいですか」
「冷静に僕の性癖変遷について語らないで!
 ……そうだよ、いい機会だからはっきりいうよ。僕、アルファの事が好きだ。大好きだ。
 人間が機械の女の子を好きになるなんて変かもしれないけど、そんなことどうだっていい。
 好きだ。心の底から、アルファが好きなんだ!!」
「嘘です」
「一世一代の告白をたった四文字で否定しないでよ! というか何を持って嘘と言うのさ!?」
「ベッドの下の本に、この一冊が入っていました」
「そ、それは……月刊ドリルマガジン8月号、夏のペイントドリラー大集合! の特別付録付きじゃないか!」
「これが一番上に重なっていました」
「アルファ、すごい勘違いをしているようだから言うけど、さすがにそれは使えないよ!
 というかそれじゃただの異常者だよ!」
「ではなぜ、マスターの右手にはいつもドリルクロウが装備されているのですか」
「いやそのこれは男のロマンとして」
「なぜマスターの愛車にはフルチューン済みのドリルアタッカーが三つ搭載されているのですか」
「えーとほらアルファでは攻撃できない地中と水中の敵対策として」
「なぜマスターの世間一般での通称がドリルジャンキーなのですか」
「まあなんというか世間様は見ているよね」
「それでは、お世話になりました」
「待ってアルファ待って! ウェイト!」
「まだ何か」
「確かに僕はドリル好きだよ! でもアルファに対する好きとはまた違う好きなんだ。
 だからアルファがいなくなる理由なんて何もないんだよ」
「マスター、私とドリルの共通点はなんでしょうか」
「共通点? えーと、可憐だけど芯が強い?」
「機械であるというところです」
「盲点だった」
「同じ機械なのに、私にはドリルがありません。もし私がドリルを持ちえるならば、
 よりマスターのお役に立てると考えます」
「アルファ、僕のためにそこまで……」
「ですから行かせて下さいマスター。私にはドリルが必要なのです。
 どのような困難も粉々に砕く、そんな素晴らしいドリルが」
「わかったよアルファ、僕はもう止めない。いつまでも待つよ。君がドリルを回す、その日まで」
「ありがとうございますマスター。それでは、またいつか──」


二年後、再び製造されたビッグモール二号が謎の女ソルジャーによって強奪され、
ドリルジャンキーと呼ばれる一人のハンターの傍を無人で走行していたのはまた別のお話。