都市伝説

彼女はとても悩んでいました。強く長く悩んでいました。
理由は彼女を見守る目。頼んでないのに見守る目。
ハートのシールで封をされた、切手のいらない手紙には
求愛の言葉が三十行に、ハートのマークが三百個。
三十三件の留守番電話と十三メートルのファクシミリ
それらが彼女を見守りました。熱く厚く見守りました。
だから彼女は疲れました。深く酷く疲れました。
彼女は悩みを打ち明けます。法の守人に打ち明けます。
守人は法の名の元に、彼女の悩みを解決しました。
彼女を思う男に対し、想うことを禁止にしました。
彼女はとても助かりました。男はとても困りました。
困りに困ったその男は、自ら命を絶ちました。
こうして世間に緩やかな平和が戻ってきたのです。


「終わり? それって要するにストーカーが自殺したって話だよね?」
「それで終わりじゃつまらないじゃないか。落ち着いて最後まで聞いてくれよ」
「はいはい」
「彼女はおかし工場に勤めていたんだ。小さいゼリービーンズを作る工場にね。ところがいつも楕円形のビーンズを作る機械が、男が死んだ日から調子がおかしくなった」
「よく止まるように?」
「いや、機械はよく働いた。休み無しで働けるのは機械の特権さ。おかしいのはビーンズの形だ。楕円で作り出されるビーンズの、形がたまに崩れてた」
「グチャグチャになってたとか?」
「とても規則正しい崩れかたをしていたんだよ。見る人が見れば口をそろえてハートマークと言うくらいに。それが一日三百個近く混ざり出した」
「うわ、手紙の」
「それらを取り除く手間をかけるわけにもいかず、結局ハートのビーンズは混ぜられたまま今でもその商品は売られているんだ」
「ちょっと気持ち悪いこと言わないでよ。作り話だってわかってても気味が悪いわよそんなの」
「何言ってんだ、お前さっきそれをバクバク食ってたんだから。そのピンクの奴の口のところをちゃんと見てみな」
「……え?」


わたしは驚いてビーンズの詰まっていた箱を取り、彼の言う場所を見た。