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定時制高校というものは大概にして不良とかアウトローとかDQNとか呼ばれる類の人の巣窟であるようで、タバコや暴力などはわりかし日常茶飯事らしい。幸いなことに僕の通う高校についてはそのような事態は今のところ見当たらず、せいぜい授業中に頭の足りない男女一名ずつが一触即発のムードになりかけ、授業終了と同時に一触即発5秒前となったくらいであろうか。平和なのはよいことである。


そういう所であるので、色々と生徒にも事情を抱えた人が来ることになる。もちろん僕もその一人であることは言うまでもないが。例えばパニック障害を持つ人や、戦後の荒廃の中教育を受けられなかった方などが様々な人生の通過点としてこの学校に存在している。


その中に一人、現代社会のグローバル化を象徴するような人物、つまり外人さんが一人僕のクラスにいる。タイから来たその人は既に10年以上日本に在住しており、日本語もなかなか達者といえる。話し相手になるくらいにはよしみを通じた僕は彼に聞いてみることにした。日本でコレは困った、という事は何ですかと。答えは二つ、英語が通じる人がほとんどいなかったこと、そして漢字の数が多すぎて覚えるのが大変だということ。やはり言語の壁が一番厚いようだ。


そんな会話をしていた最中、彼は僕の持っていた本について尋ねた。ソノ本ハ面白イデスカ? 僕はなかなか面白いですと答え、表紙にある作者の名前をもじりながらそれを音読した。ダザイ・オサムという人の作品です。彼はアー、と声を上げ、少し思考してからこう返した。


鉄腕アトムデスカ?


彼とは今後とも親交を深めていくつもりである。