そうだ。コイバナしよう。

「僕の心は小学校三年生の時から止まったままなんだ」
「子供っぽいのはそのせいなんだね」
「アニメとゲームと漫画があればきっと一生生きていける」
「もう少し趣味の幅を広げた方がいいと思うな」
「で、なんで小学校三年生で時が止まったかというとね」
「なんか会話してないね、僕達」
「恋をしたんだ。小さな小さな恋を」
「女を手篭めにしてぇっていう感情を綺麗なモノっぽく表現してるアレだね」
「変なところでリアリストだね君は」
「サンタなんていなかったもの」
「とにかく、僕は一人の女の子を好きになったわけだ」
「それはどんなこだったんだい?」
ダービースタリオンで言うところの気性難って奴だね」
「暴れ馬だったんだ」
「乗ってないけどそんな感じ。僕がいちいちちょっかい出しては怒鳴られてしょんぼりしてた」
「勇気があるんだか無いんだかよくわからんね君は」
「自分でもよくわからないや。綺麗な子だったからそんな事してたんだろうけど」
「綺麗な子だったんだ」
「綺麗だったと記憶してるよ。髪が特に綺麗で、陽に当たるとキラキラと輝いてた」
「髪フェチ?」
「確かに坊主頭の子を好きになるとは思えないけど、フェチとは違うんじゃないかな」
「じゃあ何フェチなんだい」
「いやフェチから離れようよ」
「何だいつまらないなあ」
「でまあ十年以上経ってやった痕っていうゲームに柏木楓っていうこの子に似たキャラが出てきてびっくりしたね」
「楓はおとなしい性格だと思ったけど」
「あくまで外見だから。楓をツリ目にしてちょと日焼けさせて、性格を乱暴者にすればあっというまに初恋の人に早変わり」
「で、その初恋は実ったの?」
「イタズラして怒鳴られるだけの関係で恋が芽生えると思うかい」
「それもそうだね」
「2月14日にド本命のチョコを貰ったくらいだよ」
「え、これひょっとして自慢話?」
「その子の方には芽生えてたみたいね、恋。貰った時は何の冗談だろうと思った」
「普通に相思相愛じゃないか」
「いや、僕には芽生えてなかったんだ、恋」
「好きだったんじゃないの?」
「綺麗だなと思ってよく見てたしちょっかいも出してたけど、それが好きという感情でやっていることを知らなかったんだな」
「どこの漫画から生まれたの君は」
「事実だからしょうがない。とにかくチョコを貰ったその年に僕は遠くの街へ引越しをして、それっきにりなりましたとさ」
「手紙をやり取りするとか、電話番号を交換するとかはなかったのかい」
「そんな発想はなかったなあ。別に大切な存在じゃないと思ってたから」
「離れてみて好きだと気づいたと」
「女の子にちょっかいを出さなくなった。それでちょっかいを出すのが目的じゃなくて、その子と時間を共有するのが目的だったんだと初めてわかったんだ」
「切なくて苦い思い出だね」
「うん」
「つまりその子のお陰で怒鳴られて興奮するマゾヒストになったというわけだね」
「うーん、ちょっと違う」
「多少はあってるの?」
「こういう経緯の元、小学3年生の女子をストーカーよろしく監視している怪しい中年のおっさんがいても、初恋の面影を追い求める恋の囚人というカテゴリーかなんかで括って社会的、科学的にも認めてあげるべきだと思うんだ」
「あ、もしもし。パトカー一台お願いします。特急で、ええ」