そのうち木やら竹やらの和製物ができると思う

実に二週間もの苦境であった。それを失ったときから直接的に影響があるわけではないが、精神的に自分が汚れていく様を大いに感じていたのだ。二週間後のある日、ついに我慢できなくなりそれを買い付けに行った。

いわゆる耳掻きである。


竹で作られ、ボンボンをつけられたそれはあろう事か私の部屋から忽然と姿を消し、未だその消息は不明である。彼自身の選択であろうからそれをとがめる気は一切無いのだが、自分の耳の中が荒れていく様を放っておくわけにはいかず、新しい耳掻きを雇い入れる必要があった。今度はもう少し構ってやろうなどと思いながら。


始めはコンビニに買い付けに行く予定だったが、ふと気が変わって少し歩きドラッグストアに赴いた。ここならば多少は安く仕入れることが出来るだろうとの魂胆である。日用品のコーナーに狙いを定め、無事耳掻きの展示位置にわが身を置くことが出来た。あとは品定めをするだけである。


さて商品は二つほど存在した。一本のみのものと二本セット販売のものである。どちらも値段に大差はなく一見二本セットのものが買い得に思えるが、本来は早々無くす物でもないのだから多少値の張るものを買ってもいいのではないかと思い、一本のものを手に取った。これでいいだろうと思いながら、念のため商品棚を見直したとき、それが視界に飛び込んできた。



怪しい。金属の光沢がいかにも医療機器のような存在感を与えている。私はこれを「中世の拷問官が愛用した、もっともシンプルでもっとも効果が高い拷問器具の一つ」と説明されたら一瞬で信じ込めるような怪しいフォルムである。しかしながらドラッグストアに拷問器具が発売されているわけもなく、これの商品名には西洋耳掻きと書かれていた。


新しいおもちゃを手に入れた子供のような満面の笑顔で、レジで声を枯らした店員におそらく気持ち悪がられながら商品を購入した私は、帰宅してさっそく拷問官の気分を味わうことにした。が、予想に反してこれが意外と使い心地がいい。冷静に考えてみれば全方位耳掻き機なのだからそりゃ使い勝手があって当然なのだが、幾分がっかりした。


なお、性能としても一山設けることが出来るくらいには良好であると追記しておく。