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僕の人間関係というのは、どうにも少数の人に一方的に気に入られるところから始まることが多いようであり、*1今現在自分の席を勝手に離れて僕の前にいついた数少ない友人であるところの元不良S君もそういう人間である。もちろん話題が欠片もかみ合うはずもないのに、僕と一緒に過ごそうとするあたりがさっぱり分からない。金もせびられてないしなあ。


もちろん一緒に過ごしてマイナスとなるわけでもなく、例えば今授業萌え族の僕は授業の邪魔とかマジ死なす的立場にいるので授業中は話しかけないように、と言ってあるのだが律儀に守ってくれてる。以前お世話になってた店長の言に、ヤンキーの類はそこいらの一般人より上下関係をきっちりやってる奴が結構いるから、意外と扱いやすい。てなのがあったことを沸々と思い出しながらそこそこの関係を保っている。


さて、元不良だけあって成績がそんなに良いわけでもない彼に留年されると、来年度から多少寂しくなることをつぶさに感じ取った僕は一計を案じた。即ち『脱パンプキン学習計画』であり通称脱藩計画。時代が時代ならば打ち首モノの危険な賭けである。幸いこの計画は単に彼の勉強を見てあげようというだけの暇つぶしと自己理解を深めるための一石二鳥的遊びに留まった事はありがたい。


そういうわけで始めた家庭学校教師(無免許)であるが、ぶっちゃけ記憶勝負である生物*2だの社会だのは気合で覚えてもらうほかないので、思考が必要な国語、英語、数学あたりから自分が得意な数学*3をチョイスして教師ってみた。当たり前だが人に教える経験などないのでこれでいいのかなあと不安になりながら分からないところを聞き出して解説を加える日々が続く。


まあそんなに手応えもなく、むしろこの人俺の話し聞いて頷いてるのかなくらいに思ってたとある日のこと。その日はあまりやる気がなく、教師が課題のプリントを使って解説してる最中もボーっとしながらすげぇスローペースで解説の先を埋めてる最中、眼前の背中が動いた。


「これであってる?」


大概このクラスの生徒は教師のペースで授業を受けるのなんてマシな方で、最初から放棄してる奴もちらほら見える中、教師のスローペースじゃ物足りねぇと勝手にプリントを埋めてる奴は自分も含めて片手で数えられるくらいしかいない。


そういう状況で目の前の男はその五本の指に入ろうとしていたのである。自分のプリントがまだ埋まってなかったのであわてて埋めた後渡されたプリントと見比べてみる。


あってる。
あってるよおい。


パーフェクトだウォルターと言ってあげたかったがその手のセリフは通じないので普通にパーフェクトだと褒めちぎっておいた。なんか分かってきたかもしれない、と喜ぶ彼の笑顔はまぶしかった。


別に僕の指導が良かったなんて言うつもりはない。自分で言うのもなんだがこれほどぶっきらぼうな教え方でよくやる気になったもんだと思う。単に彼に数学の適正が自分で思ってるよりは遥かにあった事に気づかせたということなんだろう。ただ、それでも開始二十分で課題を終わらせ、休み時間に「今回の授業暇だったねー」と笑顔で喋りかけてくる彼を見ると嬉しくなっている自分がいるのは確かのようだ。


ただ、教師とか塾講師の道も面白いかもなーとかニヤニヤしながら妄想しだしたキモイ生き物が一匹生まれたことに関しては社会的にはマイナスだと思う。
さあ次は国語だ。

*1:自分から他人に接触する気がないからある意味当然ではあるが、僕に接触しようと思う人間の気が知れないともまた同時に思う

*2:理科総合B

*3:どうでもいいが、入学して初めて自分が数学が得意らしいということを知った。文系だと思ってたんだが