愛撫してくりゃよかった

学校の帰り道、一つ路地の裏に入って電灯の少ない道を虫の声に耳を傾けながら、ぼんやりと空を見ながら歩いていた僕に突然その姿は舞い降りた。
「ふひゃぁっ」
大口開けて思いっきり空気を吐き出すと妙な悲鳴になるな、と思いつつマトリックス避けモードに入った僕はゆっくりとのけぞった後、視点をそこから動かさずにスローモーションで右手からそれの背後に回りこんだ。相手はなんてことのないただの蜘蛛ではあったが、都内で見るには少々珍しいだけの大きさであったし、何より日本人の平均身長にほぼ順ずる僕の身長で思いっきり頭に蜘蛛を乗っけてしまいそうな位置に巣が張られている現場を見るのは初めてだった。というかそのまま歩いていたら確実にお洒落とは言いがたいかつらを被って帰宅するところだった。ちょっと大きめのトラックが通ったら一発で払われるような蜘蛛の巣がよくもこんな時間まで残っていたもんだと少し感心しつつ、背を向けて歩き出した僕はふと足を止めた。まてよ。わざわざこんな闇夜に紛れて僕の身長ぎりぎりのところに自身を置けるような巣を張ってまでこの蜘蛛は何を捕らえようとしていたのだ?


この時間この通路、そしてこの高さという三つの状況証拠を見れば答えは自ずと導かれる。
そう、獲物は僕以外に考えられない!!
思わず振り返る僕に、蜘蛛は何も言わずそこに佇んでいた。


その後、贄になりなさいとか言いつつ黒いセーラー服の姉様が来ないかと借りてきた本を読みながら待ちわびていたわけですがそろそろ夜が明けかねないので諦めてさっさと寝ます。