逃避力(ちから)

目の前に重大な問題があるときに、それに相対せずまったく無関係の行動をとってしまうことを逃避という。経験がある人ならわかるだろうが、とかくテスト前日に読む漫画ほど面白いものは無い。一度読んだことのある漫画のはずなのに、なぜか新鮮に映るのだ。おそらく脳みそが『これほど興味のあることを前に他の行動なんてしてられっか』とむりやり思い込ませてるためにそうなるのだろう。まあとにかく、この逃避力は既知の漫画が面白く感じるくらいにはすさまじい力を持っている。

そこに力があるのなら、利用するのが現代人だ。というわけで逃避力を流用してみた。

やらなきゃならんことを置いといて、「あえて寝るっ!」といった具合にひたすら自分を放置。時間の経過とともに確実に意識が追い詰められていく。焦りと苛立ちが自分を支配していき、それが最高潮に達したときに、僕はマスクとはたきと雑巾を手に取った。即ち大掃除である。

散らかった衣服をひたすら洗濯機に叩き込み、または畳んでタンスに突っ込み、部屋の各所に積み上げられたマンガ本を一箇所に集め、ほこりを落とし、掃除機で吸い、床を磨き、風呂に入り、歯を磨いた。こうして僕は、何ヶ月か、あるいは何年かぶりに光る床と対面を果たしたのである。

とても楽しかった。そう、あれほど掃除を面倒くさがる僕が、掃除を楽しかったと思えるのだ。これが逃避力を発揮する上での最大の利点だろう。目の前に重大な問題が迫ってきているとき、それこそが逃避力を最大に発揮するチャンスといえる。もちろん問題を解決する期限が来てしまっては逃避する暇は無いので、それ以前の短い期間にしか逃避力は発揮できない。もし皆さんが逃避力を利用したいと思うのであれば、計画的に逃避することをお勧めしたい。

ついでに言えば、こんなもんに頼らんで毎日少しずつ掃除するほうが遥かに賢明だと思う。