朝比奈みくるの考察

涼宮ハルヒの憂鬱シリーズにおいて朝比奈みくるが無能だの役立たずだのぽんこつおっぱいだのといったかなり的確な非難を受けている光景をそこそこ目にするようになった。それらの指摘は比較的妥当であり、わりかし不人気的立場を得ているのもまあしょうがないかもしれない。


しかしちょっと待ってくれ。本当に朝比奈みくるぽんこつおっぱいと言えるのだろうか。今日はそこら辺を軽く煮詰めてみたい。


さて、結論から言うならば朝比奈みくるぽんこつおっぱいである。いや正確に言うならばそれは朝比奈みくる(小)のほうだ。朝比奈みくるにはもう一人、未来の自分自身という朝比奈みくる(大)の存在がある。こちらはほぼ確実にぽんこつおっぱいではないといえる。彼女は自分自身の意思で行動を決定しSOS団に、いやおそらくはキョンに関わっているからだ。朝比奈みくるという人間を見るならば、ぽんこつおっぱいである(小)より、自立を果たしている(大)の方が適当なのではないだろうか。


説明してみよう。まず(大)は徹底して自分のことを(小)に隠しているということ。これは言い換えれば朝比奈みくる(小)にとって、上司である(大)の存在は規定事項ではないという事だ。全く別の人間が姿を見せず指令を与えても、上司と(小)の関係はなりたつのだから。(小)が成長しSOS団を抜けて(大)の年齢になったとしても、過去の自分に指令を与える存在になるかどうかは本人の意思次第ということになる。つまり、朝比奈みくる(大)は規定事項だからではなく、明確に自分の意思でSOS団に関わっているということだろう。


ここから先は推測になるが、(大)は(小)に未来からのエージェントとしての役割を背負わせまいとしている節があるように思う。前述の未来の自分を規定事項にしないようにしている所や、(小)の申請する項目をすべて却下してみたりといった所からそれがうかがえる。


こうしてエージェントとしての道から遠ざけられた朝比奈みくる(小)は、無事普通の未来人としての道を歩み始めたのでした……とならないことは(大)の存在が否定していることは言うまでもない。「ここまで来るのにけっこうがんばったんだから」と言うのだから、それなりに苦労もしていることだろう。なにをきっかけに(小)が(大)となる道を選んだのかについては、原作が進む中で明かされることを祈るしかない。ただその理由のひとつに、キョンという存在があるような気がしてならない。


消失世界のキョンが訪れた二度目の三年前の七夕での朝比奈みくる(大)との会合で、キョンに無言で頭を預ける(大)は、果たして何をつぶやいたんだろうか。なぜキョンに「私と仲良くしないで」と言ったのか*1。突き詰めると、(大)はエージェントとなる道を選んだにもかかわらず、(小)にその道を歩ませまいとするのはなぜか、という事になる。朝比奈みくるというキャラを考えるに、陰謀だの野望だのは似合わない。もっと単純に、初恋の男の子に会いたいくらいが適当じゃないかと思う。会いたい、と思うくらいだから当然みくるとキョンは結ばれないのだろう。未来人だし。だから、キョンとはこういう形でしか関われないのだ。これが(大)がエージェントとしての道を歩み始めた最大の理由じゃないだろうか。


「私と仲良くしないで」という発言の一番の目的はここにあるんじゃないかと思う。そこにはキョンに惚れる(小)という未定事項がなくなれば、結ばれないとわかっている相手を想い続ける馬鹿な自分という存在が抹消され、新しい未来が開けるかもしれないという淡い期待が込められているのだろう。


『ワープでループなこの想い』を断ちきるために。

*1:ハルヒを刺激するなという意味もあるのだろうが